Monthly Archives: 1月 2016

同時に複数の処理を実行するための最低限の知識 – メイドさんでも分かるプログラミングシリーズ vol.4

前回に引き続き、メイドさんにプログラミングを教えるためのシリーズです。

前回Webサーバーの仕組みについて、説明しました。早速アプリからWebサーバーに通信するプログラムを作ってみたくなりますが、その前に一つ知っておかなければならないことがあります。

外部と通信する時に大切なこと

Webサーバーは、アプリを実行する端末とは通信回線越しに離れたところにある別のコンピューターです。そのため、通信をして結果が帰ってくるまでの間には、どうしても待ち時間が発生します。

ところで、プログラムは通常、上から順に書いたとおりに実行されます。途中で遅い処理があると、その処理が終わるまであとの処理は行われないのが大原則です。

通信している間待つ

もし、Webサーバーとの通信のような遅い処理を待ってしまったらどうなってしまうでしょうか?ボタンを押してから、サーバーが結果を返すまでの間、固まってしまうことになります。その間は、他のボタンを押すこともできませんし、ホームボタンを押してホーム画面に戻ることも、別のアプリを起動することも、アプリを終了することさえもできなくなってしまいます。

通信中ボタンが押せない!--

こんなアプリを作ったらユーザーに怒られてしまいますね。(^^;
(実際はできないようになっています)

並列プログラミングとは

外部との通信など結果が得られるまでに時間がかかってしまう処理は、待つのではなく、別個独立してやって欲しいです。このような処理「並列処理」と言います。

並列処理をJavaで実現する、最も基本的な仕組みとして、「スレッド」というものがあります。Threadとは糸という意味です。一つの処理の流れを糸に例えて、複数の糸が同時に伸びて絡み合っている様子をイメージしてください。複数のスレッドを使うので、「マルチスレッド」ということもあります。

スレッドは糸

Javaでスレッドを作るためにはズバリ、Threadというクラスを使います。書き方は2通りあります。

Thread t = new Thread() {
    @Override
    public void run() {
        // 処理
    }
};
t.start();
Thread t = new Thread(new Runnable() {
    @Override
    public void run() {
        // 処理
    }    
});
t.start();

2つの書き方の結果に違いはありません。第2回の知識を使うと、前者はTemplate Methodで、後者はRunnableという関数オブジェクトを使っていますが、どちらを使うかは自由です。

最も手っ取り早くスレッドを作りたければこんな書き方ができます。

new Thread() {
    @Override
    public void run() {
        // 処理
    }    
}.start();

スレッドの使い方はこれだけです(笑)

しかし、実際はスレッドを扱うには注意しなければいけないことがたくさんあります。

スレッドは動き始めてしまったら止められない(汗;

Thread t = new Thread() {
    @Override
    public void run() {
        // 処理
    }
};
t.start();

このように初めてしまったスレッドtは、もう、run()メソッドが終了するまで外側から止めることはできません。

stop()susupend()というようなメソッドがあるように見えますが、これらは「安全ではない」と非推奨になっています。
スレッドは止められない

もし、プログラミングを失敗して、いつまでも終了しないスレッドがたくさん作られたら大変です!マシンが暴走してしまい、システムはカックカクで最終的に強制終了しなければならないでしょう。

毎回結果が異なる

複数のスレッドがあるとき、コンピュータはどのスレッドをどのくらい優先的に実行するのか、プログラマーには制御できません。そのため、全体の処理の順番が、その時時によってバラバラになります。そのため

「あれ?前回と結果が違う」

「トラブルの報告を受けて、言われたとおりに試したけど再現しない」

ということが格段に増えます。

データが壊れることがある

オブジェクトは複数のスレッドから同時に使われることを想定していない場合があります。

例えばプログラムをカフェの店員さんに例えてみましょう「お客さんのコップの中身が空なら水を注ぐ」という仕事があったとします。きっとこんなプログラムだと思います。

if (お客さんのコップは空ですか?()) {
    お客さんのコップに水を注ぐ();
}

とてもシンプルですね!店員さんが一人の時はこれで問題がありませんでしたが、大変ありがたいことに、お店に人気が出て、お客さんがたくさんいるので、店員さんを複数人雇いました。店員さん一人ひとりが一つの「スレッド」です。

class 店員スレッド extends Thread {
    @Override
    public void run() {
        while (就業時間中?()) {
            if (お客さんのコップは空ですか?()) {
                お客さんのコップに水を注ぐ();
            }
            // その他色々        
        }        
    }
}
Thread 店員1 = new 店員スレッド();
Thread 店員2 = new 店員スレッド();
Thread 店員3 = new 店員スレッド();
店員1.start();
店員2.start();
店員3.start();

さあ、みんなで仕事を始めたら大混乱!

  • まず、店員1さんが、お客さんのコップを確認します。
  • 「あ、コップが空だ!注がなきゃ!」といって水を準備します。
  • その間に店員2さんも、同じお客さんのコップを確認します。
  • 「あ、コップが空だ!注がなきゃ!」といって水を準備します。
  • 店員1さんが戻ってきてコップに水を注ぎます。
  • コップは水で満タンになります。
  • そこへ店員2さんが戻ってきました。
  • 店員2さんは、さっきコップが空だと確認したので、よく確認しないで、コップに水を注ぎます
  • コップは既に水で満タンなので、盛大にこぼれます!!

データの破壊

実際の人では、そんなことは起きませんが、複数人の人が無秩序に動いていたら大変な様子が想像できると思います。

並列プログラミングでは、「あるデータの状態を見る」それにもとづいて「次の処理をする」というプログラムを書くとき、「その間に別のスレッドが書き換えているかもしれない」という心配が常に発生するのです。

そこで、どうするかというと、店員1さんがお客さんの対応を始めたら、別の店員さんが同じお客さんを対応しないように、印を付けてしまいます。この行為を「ロック」と言ってJavaではsynchronizedと書きます。

synchronized (お客さん) {
    // お客さんに対する処理
}

このようにしておくと、別の店員さんはロックされている間、そこで処理を待ちます(別のお客さんのところには行かないです)。

固まってしまうことがある

そんな、データの破壊を防ぐためのロック機構ですが、ロックをすると別の怖い問題が発生します。「デッドロック」という現象です。

  • お客さん1をロックする
  • 何かする
  • お客さん2をロックする
  • 何かする

という店員Aさんと、

  • お客さん1をロックする
  • 何かする
  • お客さん2をロックする
  • 何かする

という店員Bさんが同時に動いていたとします。

運悪く、それぞれが「お客さん1」「お客さん2」をロックした後、それぞれ「お客さん2」「お客さん1」をロックしようとしたらどうなるでしょう。

答えは2人の店員さんは見つめ合って固まってしまいます。\(^o^)/

デッドロック

この現象を「デッドロック」と言います。デッドロックはとても怖い現象です。防ぐことが難しく、発生したらもう救うことができないからです。

デッドロックを防ぐ方法としては、

  • 逐次ロックせず一変に全部ロックする
  • ロックする順序を必ず同じにする

などの工夫があります。それでも、複雑なプログラムではうっかりどこかで考慮漏れは発生します。

今日もどこかでデッドロックでプログラムが固まっているでしょう。

まとめ

並列プログラミングは、カフェで店員さんがたくさんいるような状態だとイメージ出来ましたでしょうか?人がたくさん働くときは、秩序が必要であるのと同じように、コンピュータも、マルチスレッドの時は秩序の管理が大切になります。

Webサーバーの仕組み – メイドさんでも分かるプログラミングシリーズ vol.3

前回に引き続き、メイドさんにプログラミングを教えるためのシリーズです。

今回は前回までとうってかわって、Webサーバーの仕組みを説明します。Androidアプリを使っていると「この部分はサーバーが必要だ」「ウェブサーバーを立てよう!」という言葉をよく聞くと思います。

「ウェブ」って、「ホームページ」とか見るための仕組みではないでしょうか?なぜ、スマートフォンアプリにWebサーバーが必要なのか?Webサーバーを立てると何ができるのか、アプリ開発視点で見ていきたいと思います。

WWW(World Wide Web)は、世界中の論文をリンクする仕組みだった

昔々、と言っても1990年代なのですが、Timさん (Tim Berners-Lee)という人が、現在私達が「インターネット」だと思っている世界を考えました。

World Wide Webと名付けられたそれは、当時、できたてほやほやの「The Internet」を使って、論文を公開する仕組みとして設計されたものでした。

論文は他の論文を引用します。引用先はワンクリックでジャンプできたら便利です。そこで、引用先にリンクできる仕組みを「ハイパーリンク」を実現するテキスト文書「ハイパーテキスト」が誕生しました。「HTML」です。これは

<a href="リンク先">リンクテキスト</a>

のように書くと、他の文書にリンクできる画期的な書式でした!

Webとはくもの巣という意味です。文書と文書がリンクによってくもの巣のように世界中に張り巡らされている!それがワールドワイドなウェブの目指す世界だったのです。

この世界を実現するために、論文を読むためのソフト(Webブラウザー)と、論文を配信するホストコンピュータ(Webサーバー)が作られました。WebブラウザーとWebサーバーは互いに通信をします。通信をするための決まりごとを「プロトコル」と言います。Web専用のプロトコルとして、「HTTP (Hyper Text Transfer Protocol)」が作られました。

WWWの世界

用語のおさらい

用語 意味
World Wide Web Timさんが考えた「The Internet」上の論文配信ネットワーク
ハイパーリンク 論文から引用先論文にジャンプする画期的機能
ハイパーテキスト(HTML) ハイパーリンクを実現するための文書形式
Webサーバー 論文を配信するサーバー
Webブラウザ 論文を閲覧するためのソフト
プロトコル 通信をするための決まりごと
HTTP WebサーバーとWebブラウザの間で行われる通信のプロトコル

HTTPの仕組み

論文をサーバーから貰うには、次の情報が必要です。

  • 論文のファイル名

論文を取得する命令をGETと名付けられました。

GET /folder/hogehoge.html

この命令(「HTTPリクエスト」と言います)を受け取ったWebサーバーは、folderの中にhogehoge.htmlがあれば次の情報を返します。

  • 「あったよ!」という情報
  • hogehoge.html の内容

これらを合わせて「HTTPレスポンス」と言います。

そのうち、前者を「ステータスコード」と言います。これは数字3桁によって定められていて、例えば次のように決まっています。

  • 200: OK (あったよ!)
  • 400: BAD REQUEST(リクエストが間違ってるよ!)
  • 404: NOT FOUND(そんなファイル無いよ!)
  • 500: INTERNAL SERVER ERROR(ごめん、サーバーでエラーが起きちゃった(汗;)
  • 503: Service Unavailable(ごめん、今混んでるみたいだ!後でもう一度来て!)

とてもシンプルな仕組みですね!

HTTPの仕組み

WebサーバーがHTMLを自動生成しても良い

Webサーバーは、Webブラウザーから、リクエストを受け取ったら、ステータスコードと、HTMLページを返せば良いのです。HTMLページは、サーバーのディスク上に、HTMLファイルとして置いておくことが最もシンプルですが、別に、ファイルがなくても、その場でプログラムで作ってしまっても良いのです!

Webリクエストを受け取ったWebサーバーが、プログラムを動かす仕組みとして、CGI (Common Gateway Interface) という物が作られました。

Webプログラムの仕組み (2)

プログラムによって毎回違うページを作ることができるので便利です(例えば、現在時刻を出力!)このようなページのことを「動的ページ」と言います。反対に毎回変わらないページを「静的ページ」と言います。

Webリクエストにパラメータを渡したくなったら

CGIによって「動的ページ」が実現できると、プログラムにパラメータを与えたくなってきます。そこで、初め、ファイル名の後ろに?を付けてその後ろにパラメータをつけていく方法が考えられました。

GET xxx.html?id=1

この方法はとても便利です。現在でも、Googleの検索結果を

https://www.google.com/?q=Java

のように表すことができます。

しかし、問題がありました。

GETの仕組み

  • 大量のデータを送ろうとすると長くなりすぎる

そこで、POSTという別の方法が考えられました。これは、ファイル名を指定した後、一行空行を開けてパラメータを送るという方法です。

POST /hello.cgi

name=taro&age=20&country=Japan&.......

これによって、非常に大量の情報が遅れるようになったので、Webを使って「ご注文フォーム」が作れるようになりました。Amazonのようなネット通販の始まりです。

POSTの仕組み

時代の流れとともに、いろんな情報を送りたくなってきた

時代は流れ、WWWは論文の配信だけにとどまらず、通販やゲームのようなあらゆる用途で使用されるようになってきました。しかも、文書だけでなく、画像、音声、映像、様々な種類のデータを配信するようになります。

そうすると、HTTPもどんどん複雑になります。現在はHTTP 1.1というバージョンが主流で、次のようにいろんな情報を送ります。

GET http://www.susumuis.info/
Accept:text/html,application/xhtml+xml,application/xml;q=0.9,image/webp,*/*;q=0.8
Accept-Encoding:gzip, deflate, sdch
Accept-Language:ja,en-US;q=0.8,en;q=0.6
Cache-Control:no-cache
Connection:keep-alive
Cookie:
Host:www.susumuis.info
Pragma:no-cache
User-Agent:Mozilla/5.0 (Macintosh; Intel Mac OS X 10_10_3) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/46.0.2490.86 Safari/537.36

レスポンスは

200 OK
Cache-Control:no-cache, must-revalidate, max-age=0
Connection:keep-alive
Content-Encoding:gzip
Content-Type:text/html; charset=UTF-8
Date:Mon, 04 Jan 2016 02:57:30 GMT
Expires:Wed, 11 Jan 1984 05:00:00 GMT
Pragma:no-cache
Server:nginx
Transfer-Encoding:chunked
Vary:Accept-Encoding

<!DOCTYPE html>
<html>
〜
(省略)
</html>

こんな風に、色々な情報が付与されてきます。Accept:のようにHTTPリクエストに付与される付加情報を「リクエストヘッダ」と呼びます。Cache-Control:のようにHTTPレスポンスに付与される付加情報を「レスポンスヘッダ」と呼びます。

Content-Typeヘッダについて

レスポンスヘッダに次の部分がありました。これは「コンテンツタイプ」といって、とても重要な情報です。

Content-Type:text/html; charset=UTF-8

text/htmlは、「MIME Type」と呼ばれる情報です。これは、レスポンスするデータの種類を表しています。MIME Typeには次のようなものがあります。

MIME Type 意味
text/plain テキスト文書
text/html HTMLページ
image/jpeg JPEG画像
text/javascript JavaScript
application/xml XMLデータ
application/json JSONデータ

アプリとWebサーバー

本来、Webサーバーは、WebブラウザーにWebページを配信することを目的としたサーバーでした。しかし、時代は流れ、Webブラウザだけでなく、HTTPプロトコルさえ使えれば、Webサーバーと通信ができる特性を利用して、スマートフォンアプリなどのプログラムがサーバーと通信をするために大変広く使われるようになりました。

HTTPがシンプル・高機能・有名で便利だったからです。

プログラム同士の通信では、もう、HTMLを使用する必要はありません。HTMLは人間に見た目を提供するためのフォーマットだからです。

プログラムで使う場合は、XMLまたはJSONというデータ形式が使われます。

XMLの例

<items>
  <item>
    <name>アイテム1</name>
    <price>1000</price>
    <image>xxxxxx.jpg</image>
  </item>
  <item>
    <name>アイテム2</name>
    <price>1240</price>
    <image>yyyyyy.jpg</image>
  </item>
</items>

JSONの例

{
    {
        "name": "アイテム1",
        "price": 1000,
        "image": "xxxxxx.jpg"
    },
    {
        "name": "アイテム2",
        "price": 1250,
        "image": "yyyyyy.jpg"
    }
}

アプリからの利用イメージ

サーバーはどうなっているの?

アプリ側から、サーバーの内部を意識する必要はありません。しかし、サーバーは通常次のように作られています。

Webサーバー

Apacheや、IIS、Nginxというようなサーバーソフトが使われます。

サーバープログラム

PHPや、Javaや、Rubyで書かれています。その間にアプリケーション・サーバーというソフトウェアが動いている場合もあります。

DBサーバー

Webサーバーは非常に大量のデータを扱うため、DBサーバーという専用のソフトウェアが使われることが大変多いです、MySQL、PostgreSQL、Oracleなどが有名です。

キャッシュサーバー

DBサーバーは非常に便利ですが、遅いという問題があります。そこで、高速化の目的で、別途キャッシュ用のサーバーが用意されていることがあります。Redis、Memcachedなどが有名です。

サーバーの構成例

まとめ

このように、もともと論文を配信するためであったWebサーバーはとても便利なので、アプリのデータをやり取りするために使われるようになりました。

Webサーバーは今やとても複雑な仕組みですが、呼び出す側としては、HTTPプロトコルさえ分かればやり取りができるので、内部まで意識しなくても大丈夫です!

それでは、次回は実際にアプリから呼び出す方法を説明していきます。

Javaでオブジェクトを使いこなすために知っておくべきこと – メイドさんでも分かるプログラミングシリーズ vol.2

前回に引き続き、メイドさんにプログラミングを教えるためのシリーズです。

前回「オブジェクトの多態性ができると便利です」と説明しました。今回は、なぜ便利なのか分かるように、プログラミングでよく使われるテクニックを6つ紹介したいと思います。

これらを知ることが出来ればオブジェクト指向のメリットを理解出来るだけでなく、実践でプログラミングをしているプログラマーと、かなりコアな会話ができるようになりますよ!

その1: 関数オブジェクト

プログラムをしていると「何か起きた時に、この関数を実行して欲しい」という時が良くあります。このような、ある条件の時に実行してもらう関数のことを「コールバック関数」と呼びます。

Javaはメソッドを変数や関数のパラメータに代入することができませんので、こういう時、コールバックして欲しい処理を書いたメソッドを持つオブジェクトを作って、それを渡します。

このようなオブジェクトのことを関数オブジェクトと呼びます。

例えば、架空のクラスですが、WebClientというWebサーバーに通信をして、通信が成功した時に行う処理を指定できるようになっているとします。WebClientResponseCallBackというインターフェース

webClient.connect(new WebClientResponseCallBack() {
    @Override
    public void onSucceeded(int status, String result) {
        System.out.println("成功しました");
        System.out.println(status);
        System.out.println(result);
    }
    @Override
    public void onFailed(String result) {
        System.out.println("失敗しました");
        System.out.println(status);    
        System.out.println(result);
    }
});

これは架空のコードですが、このようなスタイルのライブラリはたくさんありますので、慣れておきましょう。

@Overrideという記号が初めて登場しました。これはアノテーションと言うもので、プログラムにつける印です。様々な場面で使用しますが、@Overrideアノテーションは、継承してメソッドを上書きしていることを示すものです。必須ではないため前回は省略しましたが、付けないとコンパイラ警告が出てしまいますので、今回からは付けることとします。

関数オブジェクト

その2: Template Method パターン

関数オブジェクトと似たような用途として、クラス継承を活用して、処理を記述する方法もあります。

これも、架空のクラスですが、例えば、画面があって、OKボタンを押した時に何が起こるかはプログラミングできるようになっているライブラリが合ったとします。

SampleScreen s = new SampleScreen() {
    public onClickOkButton() {
        System.out.println("ボタンが押された!!");
    }
};
s.show();

このような、クラス継承を利用して、一部分のメソッドだけサブクラスに委ねるテクニックを、Template Method パターンと呼びます。

テンプレートメソッド

その3: ラッパーオブジェクトパターン

例えば、以下のコードは今まで「おまじないです」と言われていたと思います。

BufferedReader reader = new BufferedReader(new FileReader("data.dat"));

これは、FileReaderというクラスをBufferedReaderクラスが包みこんでいます。BufferedReaderのような、内部にオブジェクトを包み込むオブジェクトのことを「ラッパー(Wrapper)オブジェクト」と呼びます。楽器のラッパじゃないですよ。●ランラップのラップです!

FileReaderは、ファイルを読み込むことができますが、バッファリングの機能はありません。一方、BufferedReaderはバッファリングの機能はありますが、自らファイルを読み込む機能はありません。

そこで、BufferedReaderでFileReaderを包み込むことによって、バッファリングしながらファイルを読み込むことを実現しています。

どんなにオブジェクトを包み込んでいても、外側から見ると内側は隠蔽されています。そして、インターフェースさえ一致していれば、内側に入れるものを切り替えてもプログラムが動きます。

BufferedReader reader = new BufferedReader(new InputStreamReader(System.in);

どんなときに、ラッパーオブジェクトを作るのでしょうか?主に次のようなとき作られます。

  • 内側のクラスのインターフェースを変換して、別のインターフェースとしてAPIに渡す
  • 内側のクラスの動作に付加機能を付け加える

このように、ラッパーオブジェクトはプログラムをとても柔軟にするテクニックです。

ラッパーオブジェクト

その4: Factory

クラスからインスタンスを作るとき、

new クラス名();

と書くと説明してきました。しかし、オブジェクト指向の世界で、newはわりと嫌われ者です。何故かと言うと、これまでのテクニックの真髄はクラスを切り替えることにあります。

SoundsMaker s = new Cat();
s.makeSounds(); // ニャー
SoundsMaker s = new Dog();
s.makeSounds(); // わん

せっかくSoundsMakerインターフェースを抽出しているのに、プログラムの中に new があるため、動作が決定してしまいるのが良くないとされます。

そこで、newをなるべく隠蔽しようと言うテクニックとしてFactoryパターンというものがあります。

例えば、newを直接書かず、メソッドにしてしまうアイデア

public static SoundsMaker getSoundsMaker(String name) {
    if ("tama".equals(name)) {
        return new Cat();
    }
    if ("pochi".equals(name)) {
        return new Dog();
    }
    return null;
}
SoundsMaker s = getSoundsMaker("tama");
s.makeSounds(); // ニャー
SoundsMaker s = getSoundsMaker("pochi");
s.makeSounds(); // ワン

getSoundsMakerのプログラムを見なかったとしたら、呼び出し元は何のインスタンスが作られるか分かりません。しかし、そんなことを知らなくても、SoundsMakerインターフェースであることは保証されているので、その範囲でできることは安心して使うことができます。

ファクトリー

その5: MVCモデル

これは考え方であって、コード例はありません。ざっと覚えておいてください。

一般的に比較的大きなプログラムを書くときは、次のように分割すると良いと言われています。

役割
モデル ロジックを担当
ビュー 表示を担当
コントローラ ユーザーの操作に応答し、モデル・ビューを操作する

例えばAndroidで言えば、Activityクラスはコントローラです。もしActivityに全部のプログラムを書いてしまうと、だんだん巨大になってしまいますので、必要に応じて、モデルを切り出すと全体の見通しが良くなります。

ビューは、レイアウトの部分で、同じActivityに異なるレイアウトファイルを与えても動く点でAndroidはビューとコントローラについて抽象化されていると言えます。

MVCモデル

その6: モックオブジェクト

最後に、モックオブジェクトについて説明します。

「モック」:モックアップ(mock up)とは、店頭にある展示用模型のことです。本物ではありませんが、本物のような見かけをしています。

プログラムを作っていると、「Aというオブジェクトを使用するにはBというオブジェクトが必要」「Bというオブジェクトの初期化にはCという情報が必要」「CはAndroid実機じゃないと取得できない」などのように、芋づる式に、あらゆるオブジェクトがからみ合ってくることがあります。

しまいには、非常に大きなオバケのような存在になってしまい、一箇所変更すると、どこに影響するのか全然わからなくなることがあります。

この問題を回避するために、本物ではない、仮のオブジェクトを作って動作確認を行うというテクニックが行われます。

そのためのオブジェクトを「モック」あるいは「スタブ」と呼びます。スタブとは「代用品」という意味です。切り株が原義のようです。

インターフェースを使ってプログラミングがされている場合は、比較的カンタンにモックを作ることが出来ます。

interface SoundsMaker {
    void makeSounds();
}

お馴染みのこのインターフェース。実は今アナタはゲームを作っていて、そのゲームでは音を扱っているとします。そこではSoundsMakerインターフェースを継承したオブジェクトがmakeSoundsとやると実際にスピーカーから音が鳴るのです。

class Bomb implements SoundsMaker {
    void makeSounds() {
        // 複雑なプログラム
        // 結果的にスピーカーから音が鳴る
        // 「ドカーン!!」        
    }
}

しかし、Bombクラスを動かすためには、どうやら専用のハードウェアがないといけないそうです。

でも、音を鳴らす以外の部分は、どうやら普通のパソコンでも動かせるみたいです。

そんな時は、モックオブジェクトの出番です。

class BombMock implements SoundsMaker {
    void makeSounds() {
        System.out.println("ドカーン!");
    }
}

Bombクラスの代わりにBombMockクラスを使用するように切り替えれば、特殊なハードウェアがなくても、プログラムが動くようになります。その代わり、音が鳴るタイミングで音はならず、代わりに

ドカーン!

という文字が出力されます。

本物のオブジェクトとモックの切り替えは、オブジェクトインスタンスをnewで生成するところで行わなければなりません。そのためには「その4」で説明した、「ファクトリー」を使用する検討が必要になってきます。

モックオブジェクト

まとめ

今回説明したテクニックを使う、プログラムからどんどん野暮ったさが消えて洗練されて来ていると思いませんか?

しかし、洗練し過ぎも問題です。

例えば、Factoryの説明で作った次のコードは

SoundsMaker s = getSoundsMaker()
s.makeSounds();

元の

Cat tama = new Cat();
tama.mew();

だった時のほうが、垢抜けない可愛さがあります。

洗練されたプログラムというのは、高貴でお近づきにくい存在なのです。より多くのことを知らないと読めないし、知っていてもどんな動きをするのか「実行するまで分からない」ときます。

どこまで洗練すれば良いかは、作っているプログラム次第です。一般的に大きなプログラムは、より洗練されていることが求められますが、個人で作るアプリでは、あどけない感じで作ったほうが正解だったりします。

この感覚は、実際にアプリを作って行くことで培われていきますので、実践で身につけて行ってください。