前回に引き続き、メイドさんにプログラミングを教えるためのシリーズです。
前回Webサーバーの仕組みについて、説明しました。早速アプリからWebサーバーに通信するプログラムを作ってみたくなりますが、その前に一つ知っておかなければならないことがあります。
外部と通信する時に大切なこと
Webサーバーは、アプリを実行する端末とは通信回線越しに離れたところにある別のコンピューターです。そのため、通信をして結果が帰ってくるまでの間には、どうしても待ち時間が発生します。
ところで、プログラムは通常、上から順に書いたとおりに実行されます。途中で遅い処理があると、その処理が終わるまであとの処理は行われないのが大原則です。
もし、Webサーバーとの通信のような遅い処理を待ってしまったらどうなってしまうでしょうか?ボタンを押してから、サーバーが結果を返すまでの間、固まってしまうことになります。その間は、他のボタンを押すこともできませんし、ホームボタンを押してホーム画面に戻ることも、別のアプリを起動することも、アプリを終了することさえもできなくなってしまいます。
こんなアプリを作ったらユーザーに怒られてしまいますね。(^^;
(実際はできないようになっています)
並列プログラミングとは
外部との通信など結果が得られるまでに時間がかかってしまう処理は、待つのではなく、別個独立してやって欲しいです。このような処理「並列処理」と言います。
並列処理をJavaで実現する、最も基本的な仕組みとして、「スレッド」というものがあります。Threadとは糸という意味です。一つの処理の流れを糸に例えて、複数の糸が同時に伸びて絡み合っている様子をイメージしてください。複数のスレッドを使うので、「マルチスレッド」ということもあります。
Javaでスレッドを作るためにはズバリ、Thread
というクラスを使います。書き方は2通りあります。
Thread t = new Thread() {
@Override
public void run() {
// 処理
}
};
t.start();
Thread t = new Thread(new Runnable() {
@Override
public void run() {
// 処理
}
});
t.start();
2つの書き方の結果に違いはありません。第2回の知識を使うと、前者はTemplate Methodで、後者はRunnableという関数オブジェクトを使っていますが、どちらを使うかは自由です。
最も手っ取り早くスレッドを作りたければこんな書き方ができます。
new Thread() {
@Override
public void run() {
// 処理
}
}.start();
スレッドの使い方はこれだけです(笑)
しかし、実際はスレッドを扱うには注意しなければいけないことがたくさんあります。
スレッドは動き始めてしまったら止められない(汗;
Thread t = new Thread() {
@Override
public void run() {
// 処理
}
};
t.start();
このように初めてしまったスレッドtは、もう、run()メソッドが終了するまで外側から止めることはできません。
stop()
、susupend()
というようなメソッドがあるように見えますが、これらは「安全ではない」と非推奨になっています。
もし、プログラミングを失敗して、いつまでも終了しないスレッドがたくさん作られたら大変です!マシンが暴走してしまい、システムはカックカクで最終的に強制終了しなければならないでしょう。
毎回結果が異なる
複数のスレッドがあるとき、コンピュータはどのスレッドをどのくらい優先的に実行するのか、プログラマーには制御できません。そのため、全体の処理の順番が、その時時によってバラバラになります。そのため
「あれ?前回と結果が違う」
「トラブルの報告を受けて、言われたとおりに試したけど再現しない」
ということが格段に増えます。
データが壊れることがある
オブジェクトは複数のスレッドから同時に使われることを想定していない場合があります。
例えばプログラムをカフェの店員さんに例えてみましょう「お客さんのコップの中身が空なら水を注ぐ」という仕事があったとします。きっとこんなプログラムだと思います。
if (お客さんのコップは空ですか?()) {
お客さんのコップに水を注ぐ();
}
とてもシンプルですね!店員さんが一人の時はこれで問題がありませんでしたが、大変ありがたいことに、お店に人気が出て、お客さんがたくさんいるので、店員さんを複数人雇いました。店員さん一人ひとりが一つの「スレッド」です。
class 店員スレッド extends Thread {
@Override
public void run() {
while (就業時間中?()) {
if (お客さんのコップは空ですか?()) {
お客さんのコップに水を注ぐ();
}
// その他色々
}
}
}
Thread 店員1 = new 店員スレッド();
Thread 店員2 = new 店員スレッド();
Thread 店員3 = new 店員スレッド();
店員1.start();
店員2.start();
店員3.start();
さあ、みんなで仕事を始めたら大混乱!
- まず、店員1さんが、お客さんのコップを確認します。
- 「あ、コップが空だ!注がなきゃ!」といって水を準備します。
- その間に店員2さんも、同じお客さんのコップを確認します。
- 「あ、コップが空だ!注がなきゃ!」といって水を準備します。
- 店員1さんが戻ってきてコップに水を注ぎます。
- コップは水で満タンになります。
- そこへ店員2さんが戻ってきました。
- 店員2さんは、さっきコップが空だと確認したので、よく確認しないで、コップに水を注ぎます
- コップは既に水で満タンなので、盛大にこぼれます!!
実際の人では、そんなことは起きませんが、複数人の人が無秩序に動いていたら大変な様子が想像できると思います。
並列プログラミングでは、「あるデータの状態を見る」それにもとづいて「次の処理をする」というプログラムを書くとき、「その間に別のスレッドが書き換えているかもしれない」という心配が常に発生するのです。
そこで、どうするかというと、店員1さんがお客さんの対応を始めたら、別の店員さんが同じお客さんを対応しないように、印を付けてしまいます。この行為を「ロック」と言ってJavaではsynchronized
と書きます。
synchronized (お客さん) {
// お客さんに対する処理
}
このようにしておくと、別の店員さんはロックされている間、そこで処理を待ちます(別のお客さんのところには行かないです)。
固まってしまうことがある
そんな、データの破壊を防ぐためのロック機構ですが、ロックをすると別の怖い問題が発生します。「デッドロック」という現象です。
- お客さん1をロックする
- 何かする
- お客さん2をロックする
- 何かする
という店員Aさんと、
- お客さん1をロックする
- 何かする
- お客さん2をロックする
- 何かする
という店員Bさんが同時に動いていたとします。
運悪く、それぞれが「お客さん1」「お客さん2」をロックした後、それぞれ「お客さん2」「お客さん1」をロックしようとしたらどうなるでしょう。
答えは2人の店員さんは見つめ合って固まってしまいます。\(^o^)/
この現象を「デッドロック」と言います。デッドロックはとても怖い現象です。防ぐことが難しく、発生したらもう救うことができないからです。
デッドロックを防ぐ方法としては、
- 逐次ロックせず一変に全部ロックする
- ロックする順序を必ず同じにする
などの工夫があります。それでも、複雑なプログラムではうっかりどこかで考慮漏れは発生します。
今日もどこかでデッドロックでプログラムが固まっているでしょう。
まとめ
並列プログラミングは、カフェで店員さんがたくさんいるような状態だとイメージ出来ましたでしょうか?人がたくさん働くときは、秩序が必要であるのと同じように、コンピュータも、マルチスレッドの時は秩序の管理が大切になります。